masaya's-book

愛と幻想のtumblr

新入社員の頃、課内で「伝説の鈴木さん」という名前がよく出ていた。
ある日、主任から「この書類、伝説の鈴木さんに渡してきて」と頼まれた。
「どこにいらっしゃるのですか?」と聞き返したら、
「伝説の鈴木さんなんだから伝説の部屋に決まってんだろ。
3階の奥だよ」と言われた。
伝説の部屋という言葉にわくわくしながら3階の奥へ行くと「電気設備課」があった。

そのお客様は「コーヒーにミミズが入っていた」と、ある店の店長に申し出たのだが、それはどう見ても5mmにも満たないコーヒーの焙煎カス。コーヒー代金の返金を求めてきたが、店長は返金を断った。しかし、一応、検査することだけは約束したという。

返金を断った判断に問題はないが、この後、そのお客様はお客様相談室に「ミミズ入りのコーヒーを飲んで体調が変になった」とクレームを入れてきた。

このお客様は電話での話し方も当初は穏やかだったのだが、検査会社からの調査結果が出て、やはりコーヒーの焙煎カスだったと報告すると「人を詐欺師呼ばわりするのか!」と激昂(げっこう)した。

しかし、無理難題を言って、金品をせしめようという悪質なクレーマーとも明らかに違う部分があった。それは、携帯電話の番号や自宅の住所もすぐ教えてくれたことだ。後ろめたい気持ちがある人間は、自分の個人情報を隠すものだが、その気配はまるでなかったという。

一方で、話の重要な部分が突然変わってしまって驚かされたという。最初は「ミミズが入っていた」と言っていたのに、途中から「入っていたのはイモ虫」ということになった。話が随分違うが、本人はそれを気にする風でもない。

理不尽にゴネるクレーム客に対処する場合、担当者は丁寧にメモを取り、話の矛盾点を見つけ、そこを指摘することで反撃⇒交渉打ち切りへと進むのがセオリー。その意味では、話に矛盾点が生じたところで、交渉を打ち切っても問題はなかった。

結局、物別れに終わるのだが、このお客の真意を知りたいと思ったBさんはさらにしばらく交渉を続け、ある結論に至った。「あのお客様には、本当にミミズやイモ虫が見えていたのではないでしょうか。そう考えると言動に辻褄(つじつま)が合うんです」──。

こじれるクレームにも色々なタイプがある。

思い切って物事を決断することを「清水の舞台から飛び降りるつもりで」と言うが、清水寺の古文書調査によれば、実際に飛び降りた人が1694年から1864年の間に234件[2]に上り、生存率は85.4パーセントであった。